日本人の精神性について ①

 日本人に「あなたが信じる宗教は何ですか?」と聞けば、おそらく多くの人は「信じる宗教はありません」と答えると思います。しかし、私たちの生活の中にもちゃんと宗教が息づいています。また、「仏教です」と答える人もいると思います。しかし、私たちが行う仏教行事は実は仏教国のそれとは似ても似つかぬものです。もし仮に、熱心な仏教徒である、タイやミャンマーの人達に私たち仏教を見せたら「あんた、それ、仏教ちゃうで」と言うでしょう。私たちは”それ”の内側で暮らしているので、普段あまり気づきませんが、この国には、私たち日本人が長い時間をかけて独自に編み出した不思議は空気感が漂っていて、それは日本人の精神文化の賜物なのです。

 聖書やコーランはとても親切にできています。簡単な言葉で、人の暮らしや守るべき規律が事細かに書かれています。これに対して、私たちの宗教には何もありません。その内容は得てして形而上の表現で、目に見えず、実践のしようがありません。例えば、聖書には「汝、殺すなかれ」と書いてあります。なるほどよく分かります。実践しようと思えばすぐにでもできます。しかし、般若心経で色即是空と言われても、なんとなくそんな気がしますが、何のことだかよく分かりませんし、実践のしようがありません。つまりそれは、目に見えない概念なのです。

 石を敷き詰めた庭園に円を描いて「これは宇宙です」と言われれば、なるほどそんな感じにも見えますが、分からない人には何のことだかさっぱり分からないでしょう。”古池や蛙飛び込む水の音”と聞いて、そこに空間的な広がりを感じるのは日本人だけです。これを英語に訳せば”Old pond and frog jump into the sound of water”となりますが、だから何?って感じです。ちなみに、鈴虫やカエルの鳴き声、風鈴の音などは、日本人にとっては季節を感じさせますが、西洋の人達にとっては単なるノイズです。それを、音や音楽として感じ取ることができるのは日本人だけです。しかし、不思議なことに西欧の人も日本の環境で育つとその音を音楽として認識することができるようになるそうです。つまり、それは、人種や脳の機能の違いではなく、その国の文化的・精神的な背景(スタイル)によるものなのです。